こんにちは!ひろ@マレーシア駐夫です。
本稿は、私が日本で働いていた頃の話をしたいと思います。
私はマレーシアへ来る前、新卒から日系メーカーの海外営業・マーケティングとして約6年間働いてきました。
メーカーを志す学生の方々から、”海外営業”について話を聞きたいと言われることが多く、海外営業とはどういった仕事なのか?私がこの数年で何を感じたか?などを纏めたいと思います。
長くなってしまいますがどうぞお付き合いください。
※以下の話は、私の経験談として、基本的には日本を拠点として出張ベースで海外へ行くという仕事が軸となりますので、ご了承ください。またあくまで個人的見解ですので、参考の一つとしてください。
目次
海外営業に配属されて(プロローグ)
駐夫の伝えたいこと
先ず最初に、私のこれまでのキャリアを簡単に説明します。
私は入社後、ヨーロッパ担当として海外業務のキャリアをスタートさせ、中国、台湾、韓国、東南アジア、北米などの当社で担当できる殆どの市場担当をしてきました。
実際に数十回以上海外出張に行き、十カ国以上の国を渡ってきました。後述しますが、国内営業担当もしました。
もちろんわずか数年のうちに、ここまで幅広いチャンスを与えてくれた会社には大変有り難く感じております。
おかげさまで世界の至るところで多くのものを感じ、学ぶことができました。
海外営業に20代の大半を捧げた上で、私が伝えたいこと。
それは「新卒から海外営業なんて辞めたほうが良いよ」ということです。
海外営業とは(就活生が抱くイメージ)
本題に入る前に、就活中の学生の皆さんが海外営業にどのようなイメージを持っていらっしゃるか考えてみたいと思います。
“海外営業”。
なんて華やかな響きでしょうか。字面だけ見ると、凄く輝いて見えますよね。まさに会社の花形!みたいな。
かく言う私もそうでした。
就活生の時は、若いうちから海外で活躍したい!そう思っておりました。
自分なりに自己分析や企業分析をしっかりと行い、まさにそれが可能な会社に入社しました。
初海外出張は、研修明け直ぐの9月。サクセスストーリー!そう思いますよね。
自戒の念を持って改めて申し上げます。
余程の天才的エリートでない限りオススメしません。
例えば、以下の条件に当てはまる方は、新卒即海外営業でも問題ないかもしれません。※残念ながら、私には当該能力が十分にありませんでした。
- 英語又は市場に最適化された特定言語がビジネスレベルで堪能(ネイティブ又は準ネイティブクラス)なこと
- 天性のコミュニケーション能力やビジネスセンス(主観では判断できないと思いますが)があること
2は例えば、学生時代にインターンシップやアルバイトなどで営業経験があり、正社員を凌ぐ金字塔を打ち立てた方など。
さぁ、話を戻すと、何故海外営業はオススメできないのか?
一言で言うと、世の就活生が思い描く海外営業の業務と実際の海外営業の業務に大きく乖離があるためです。
海外営業とは(実際の業務)
海外営業ってどんな仕事?
海外営業の仕事とは「海外の販売会社・代理店の販促支援やオペレーション」です。つまり、間接営業になります。
はい。
大多数の就活生が思い描いている「自身が現地に行って、お客さんに直接提案するんや!」というような姿ではないのです。
もちろんそういったことが可能な会社もあるでしょうし、運良くそういった職務を担当できる方もいると思います。
例えば、ベンチャーや大企業の新規事業など黎明期における過渡期の施策として、自ら海外出張を頻繁に行い、顧客と直接コミュニケーションするようなケースです。
実際に私も一部そういったこともありました。
ただし、ここでは大企業の一般的な海外営業職と仮定した上で話を進めます。
基本的に大企業の海外営業とは「海外の販売会社・代理店の販促支援やオペレーション」となります。
海外営業としての仕事やどういった能力が必要なのか?については、こちらの記事でまとめましたので、気になる方はご覧頂ければ幸いです。
海外営業経験者が語る。海外営業の仕事内容と必須の3つの能力(スキル)とは?この合理性という観点において、もっとも合理的な形とは、「本社が何もしなくてもローカルで勝手に売上がる状態」です。
売れる仕組み作り、まさしくマーケティングが目指すところですよね。
つまり、本社の営業が莫大な販促コストをかけてまで海外出張をするには、それなりの”意義”が必要なのです。
海外営業としての苦悩
海外営業としての仕事
皆さんが新入社員として、海外営業のキャリアをスタートさせたとします。
恐らく皆さんは、新担当者として海外のスタッフに紹介されるところから始まり、徐々にメールや電話会議などでチームに入っていくことになるでしょう。
皆さんのカウンターパート(主なやり取りの相手)は、主に各国にいる販社の営業マン(もしくはサービスマン)です。
皆さんのミッションは日々のメールや電話会議の中から、彼らの販促状況を吸い上げ、課題を抽出し、彼らの営業にフィードバックすることです。
この時点でお気づきになりましたでしょうか?そう、皆さんは”How”を持ち合わせていないのです。
顧客が解決したい課題は何か?どこに投資のフォーカスポイントがあり、予算はいくらか?
これらは最初から与えられている条件であるとは限りません。
こういった複雑なストーリーを顧客との信頼関係を築き、コミュニケーションの中から把握し、自社としての最大限のソリューションを提供し、納入して検収をあげること→これが営業のミッションです。
もし、そんなの当たり前でしょ!と、これらすべてが入社した時から問題ないという方は、ここで読むのを止めていただいて結構です。
なぜ、”私”では伝わらないか?
基本的に現地の営業マンはベテラン社員が多いと思いますし、営業マンとしてローカルで長年やってきた誇りもあります。
さぁ、ここで新入社員の貴方が、ビジネスの右も左も分からない状態で現地の営業マンにもっともらしいことをお願いしたとします。
どうなるでしょうか?
十中八九言うことを聞いてくれないと思います。
何故なら、これは特に営業マンの習性ですが、自分に利益があること(特に営業成績に直結すること)を都合良く取捨選択するからです。
海外においてはインセンティブ制があるので、みんな売れるものを楽に売りたいのです。
つまり、この人の言うことには説得力があるな!これを実践したら結果が出るのではないか?それを言ってくるだけのキャリアを持ち合わせているか?ということを彼らは判断しています。
私は入社してから暫くの間、この壁に非常に苦しみました。
入社して間もないため、日本語でさえ担当商品を理解していないのに、最初からすべて英語でプレゼンすることや、ビジネスの本質も分からないのに英語だけ使ってなんとなく技術者と現地の橋渡しをするだけ。
すべては私の能力不足に起因することで、また人それぞれ認識は異なるかと思いますが、私は当時の自身の仕事にまったく価値を感じませんでした。
さて、悩んだ私がどんな行動に出たのでしょうか?
私の決断 ~“営業マン”としてのスタート~
ちょうど入社して一年ほど経過したときでしょうか。
私は決意しました。
国内の仕事をやりたいと所属部署に上申することにしました。
何故こういった選択をしたのかと言うと「日系企業に入社し、日本人相手に自分の力でモノが売れないのに、どうやって世界の人にモノを売れるのか?」と考えたからです。
国内の仕事を始めてから、私が初めて任された日本のお客様の案件がありました。
がむしゃらに働きお客さんと仲良くなり、冗談も言い合える仲になりました。
結局、色々と難しい背景があり私の担当中には決まらなかった案件だったのですが、私が異動をすることになり、ご挨拶に伺った時に、その担当者の方がこう言ってくれました。
餞別のお世辞だったかもしれません。
ただ、この言葉が、私を”営業マン”として出発させてくれた言葉でした。
この言葉があったからこそ今の自分があります。
なお、後日無事受注が決まったと報告を頂きました。
二足のわらじ
ところで、国内担当を始めることになった私ですが、組織の懐事情として、それまでの海外担当は継続するという条件がついていました。
有り難い反面、大変なことになりました。
09:00-17:00は主に日系の担当の仕事を行い、17:00-で海外の仕事をすることに。
グローバル化の弊害ですね(笑)文字通り、人の2倍働きました(国内x海外二刀流!)。
しかし、これは自分のわがままを通してもらった形ですので、納得した上で対応していました。
フレックスタイムだったので、日によって調整することができたのは救いでしたし、一部海外担当の仕事を調整して頂くなど、周りの先輩も私を全力でサポートしてくださいました。
さて、予想に反して、この時期の私は水を得た魚のように充実していました。
自分の頭で戦略を考え、技術者も交えて自社のソリューションを作り上げ、実際にお客さんに直接提案して、時には褒められ、時には怒られることを肌で感じられるという、このやり取りが楽しくて仕方ありませんでした。
当たり前と思われるかもしれませんが、海外営業という仕事はこれらが経験できないのです。
繰り返しますが、直接売るのは自分ではなく、現地の営業マンだからです。
良い作用として、国内営業を経験したことで、海外営業においても広がりが生まれました。
自社の商品に対して、顧客(市場)は主にどの部分に着目するのか?顧客が競合製品と比較して弱点と感じている部分はどこか?そういったものが経験則として理解できるようになりました。
海外営業としてのキャリアを振り返る
駐夫的グローバル人材の条件
ここまで様々論じてまいりましたが、6年海外ビジネスを経験してきた筆者が考えるグローバル人材とは、英語ができる人材などでは決してありません。
何よりも大事なのは、
“相手の人となりや文化をリスペクトでき、そして自身や自国をも伝えられる人材でなければならない”
と、私は海外のキャリアで学んできました。
先日ノーベル医学生理学賞を受賞された、京都大学の本庶佑先生をご存知でしょうか?
ノーベル賞の授賞式の映像などを拝見し、私は本庶先生こそが本当のグローバル人材だと思いました。
“日本人が世界に革命的なインパクトを与え、それを流暢な英語で発信し、和服や謙虚な姿勢で日本人としてのアイデンティティをも世界に示すことができる”
日本人として、このような格好良い姿を目指したいと非常に感銘を受けたのが記憶に新しいです。
海外営業をやっていく上で、日本の文化を交えて相手とコミュニケーションが取れることは非常に重要です。
海外というフィールドでは、画一的なバックグラウンドなどなく、違うことが当たり前です。
その中で日本人の貴方と仕事をするのですから、みんな、貴方が歩んできたストーリーを知りたいのです。
海外を知る以前に日本のことを知らなければ、本当の意味でのグローバル人材になれることは決してないと思っています。
キャリア設計について
海外に行きたい!海外で活躍したい!痛いほど気持ちは分かります。
しかし、貴方の目的は海外へ行くことでしょうか?それで満足でしょうか?
私が、当時の自分や海外営業志望の皆様に今一度アドバイスしたいのは、“今一度自分が目指す場所をしっかりと見直すべきである”ということ。
海外営業はものすごくタフな仕事です。
外国語を使って仕事をする、時差の中対応する、商習慣の違いによるストレスなど、綺麗事ばかりではありません。
英語ができる、海外が好きくらいの思考では、入社できたとしても確実に頭打ちになります。
自身はその企業を通じて、海外営業を通じて、何をしたいのか?
それを実現するためのフィールドとして海外を位置づけられているか?
こういったロジックがなければ、例え留学経験者でもTOEIC900でも海外ビジネスで活躍できる人材にはなれないと思います。
補足しますが、海外営業はなくてはならないポジションです。
社内で誰かが海外市場をマネージしなければならず、それによって海外売上の成否が分かれます。
しかし、あくまで「海外ビジネス」は、自社のポートフォリオを形作る一手段でしかありません。
上述したようなビジネスのフローを体系的に理解するのは一朝一夕ではできません。
海外市場で同時並行ですべてができる能力があれば、それに越したことはありませんが、情報が整理しやすい国内において、効率良くビジネスの基礎をまずは叩き込むという選択肢もあっていいはずです。
まとめ
先ずはビジネスの基礎をしっかりと固める。これが何よりも大事です。
いくら良い種を持っていても、土壌作りを怠れば良い花は咲きません。
その上で自社内に海外部隊へのキャリアパスがあれば良いですし、自社内にないとしても、綿密に築き上げた武器があれば、転職という形でいくらでもチャンスはあります。
私の稚拙な考えをすべての人に押し付けようとは思いません。
ただ、今一度自分がなりたい人材像を深く掘り下げて考えることも大事だと思います。
本当にいつか理想とする輝いた自分になるために、逆算的に先ず積まなければならない経験はないでしょうか?
入社して何もない状態ですぐに海外に行くより、30歳になった時に誇りを持てる軌跡を歩んできたと自信を持って言えることの方が私は魅力的だと思います。
急がば回れ
この言葉で本稿を締めくくりたいと思います。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!